「台日特別パートナーシップ促進年」記念 
歌舞伎レクチャーデモンストレーション公演(台湾公演)

   台湾は、2009年を「台日特別パートナーシップ促進年」と位置づけ、日本との文化交流に特に力を入れ、國家戯劇院と國家音楽ホールでは、10月、11月に日本の舞台芸術シリーズを設定し、この歌舞伎レクデモ公演は日本文化を代表するイベントのひとつとして招聘されました。
【プログラム】

1、レクチャー其の1 「歌舞伎の歴史と音楽」
      解 説:中村 又之助

2、『鷺 娘』 長唄囃子連中
      鷺の精:中村 京 蔵

3、レクチャー其の2 「女形の基本と立役の扮装」
      解 説:中村 京 蔵
      実 演:中村 又之助

4、『石 橋』 長唄囃子連中
      雌獅子:中村 京 蔵
      雄獅子:中村 又之助
◆2009年10月10日(土)・11日(日)14::30/19:30 
国立中正文化センター 国家音楽庁 リサイタル・ホール(地下1階)
(中国語:國立中正文化中心 國家音樂廳 演奏廳)
(英語:National Chiang Kai-Shek Cultural Center, National Concert Hall, Recital Hall)
■主催
国立中正文化センター
(中国語:國立中正文化中心)
(英語:National Chiang Kai-Shek Cultural Center)

■共催
財団法人交流協会

■製作
松竹株式会社
鷺娘
石橋

「歌舞伎レクチャー&デモンストレーション」
米国西部5都市(ロサンゼルス、サンフランシスコ、シアトル、ポートランド、デンバー)巡回開催 
   この度(2009年10月)、国際交流基金(ジャパンファウンデーション)の海外公演主催事業として、米国西部5都市(ロサンゼルス、サンフランシスコ、シアトル、ポートランド、デンバー)で、私と中村又之助丈による歌舞伎のレクチャーとデモンストレーションが実施されました。

 特にロサンゼルス公演は南カリフォルニア日米協会創立100周年記念事業の一環として実施されました。
【プログラム】

1、レクチャー其の1 「歌舞伎の歴史と音楽」
      解 説:中村 又之助

2、『鷺 娘』 長唄囃子連中
      鷺の精:中村 京 蔵

3、レクチャー其の2 「女形の基本と立役の扮装」
      解 説:中村 京 蔵
      実 演:中村 又之助

4、『石 橋』 長唄囃子連中
      雌獅子:中村 京 蔵
      雄獅子:中村 又之助

【歌舞伎レクチャー&デモンストレーション】

◆10月15日(木)14::00/20:00 ロサンゼルス アラタニ日米劇場
共催:日米文化会館

◆10月17日(土)14::00 サンフランシスコ マッケナ劇場
共催:サンフランシスコ州立大学

◆10月19日(月)19::00 シアトル イルス・リボール・ノードストーム・リサイタルホール
共催:桜祭り実行委員会

◆10月22日(木)19:00 ポートランド ドロリアス・ウィングスタッド劇場
共催:ポートランド州立大学

◆10月24日(土)19:00 デンバー ジェーン・スワナー・ゲーツコンサートホール
共催:コロラド日米協会

■主催
国際交流基金(ジャパンファウンデーション)

■製作
松竹株式会社

■共催
日米文化会館、在ロサンゼルス日本国総領事館、在サンフランシスコ日本国総領事館、
在シアトル日本国総領事館、在ポートランド日本国総領事館、在デンバー日本国総領事館

■後援
南加日米協会、北米日米協会、ネバダ日米協会、LA東京会

■協賛
都ホテルロサンゼルス、ペンタックス、デンバー豆腐、パセフィック・マーキャンタイル


台湾篇
台湾 パンフレット

台湾 パンフレット(裏面)
写真をクリックすると大きくなります。

10月8日 午前4:00起床

刺客!?のような台風18号の襲撃で、はたして午前10:00発の台湾行きJAL641便は成田を飛び立てるのだろうか? いつにも増して責任の重い今回の台湾と米国西海岸での歌舞伎レクチャーデモンストレーション公演! その出鼻をくじかれたやうな暗澹たる気持ちで、風雨の中をタクシーでひとまず渋谷に向かう。案の定、JR成田エキスプレスは始発から運休! 日暮里発の京成スカイライナーは動いているとの情報を得て、山手線外回りに飛び乗り、日暮里駅に向かうと、はたして、成田空港に向かう人々で大混雑!しかし、運よく6:35発に乗れて成田空港に向かうと朝日が射して来たのでビックリ!
宅急便カウンターでスーツケースを受け取り、集合時間(午前8:00)の15分前に第2ターミナル3階の集合場所にようやくたどり着くと、すでに全員無事に到着していてまたまたビックリ!
飛行機も定刻に飛び立ち、揺れますのでご注意くださいと脅かされていたのに、ほとんど揺れもせず、快適な3時間半の空の旅を満喫して、12:35(時差1時間)無事に台北桃園国際空港に到着。私はつくづく自分の悪運の強さ!?いやいや一座一行の運の強さと幸先のよさを実感したのでした!

日本交流協会台北事務所(台湾には大使館がなく、それに変わるもの)の方の出迎えを受け、ひとまず、会場の国家音楽庁を下見、所謂、コンサートホールだから音響は抜群だが、パフォーマンス的には不備が多い。しかし、いままでどんなすごい!?場所でも敢行してきたので、工夫仕甲斐があるというもので、少々のことはへっちゃらである。
今回の主催者である國立中正文化中心の関係者の皆さんの熱い歓迎を受け、また二日間四回公演全て完売(350席×4回)と聞いて、有り難いやら身の引き締まる思い。

18:30、交流協会の齊藤代表との接見及び夕食会。
斎藤代表は、以前、ニュージーランドの大使を勤められており、5年前のウェリントン公演以来の再会。、また、同文化室長の馬場さんもシドニー公演の折にジャパンファンデーションの担当者として大変お世話になっており、私も又之助さんも久々の邂逅に感激!

22:00、今朝からの台風騒動でどっと疲れが出て、今夜は早目に就寝。

10月9日 午前9:30

会場の國家音楽庁リサイタルホールで舞台稽古。午後から別の催しがあるので、正午まで2時間半で済ませねばならず、必死!当然、照明は仕込めないから、全てを仕切る舞台監督の井口さんと現地スタッフの深夜の作業となる。木目の舞台は堅くて足が痛いが、滑りはいい。この音楽庁と隣りの國家戯劇院は、中国様式の極彩色豊かで壮麗な建築物である(写真参照)

14:30より記者会見。台湾の京劇女優魏海敏さんも同席され、魏さんも古典芸術継承存続の困難さを訴えられておられたが同感。リハーサルを終え、閉館まで1時間しかない中を急いで故宮博物館へ行き、有名な翠玉白菜(白菜の形をした翡翠)と肉片石(豚の角煮の形をした石)をかろうじて見ることが出来た。天王寺屋の旦那オススメの鼈甲の御簾は、故宮博物館の所蔵品ではなく、今回は出品展示されてはおらず残念無念!

21:00 街中の屋台や夜市も見学したかったが、くたびれ果てて、ホテル内でビールを飲んで早目に就寝。

10月10日

14:30 台湾公演初日。
満員の客席は、私も又之助さんも日本語で解説するだけで反応がいいのは、日本統治時代の年配の方が多いからだとの関係者のお話し。台湾は街中の看板も日本語的だし、人柄も異国とは思えぬほど日本的感性。又之助さんが付け打ちの解説で見得を切って、皆様もご一緒にと客席に促すと大喜び!私の女形の解説でも、口に手を添えて泣いたり笑ったりをご一緒にと客席に振ると大受け!鷺娘では、雪籠が吊れないので、扇風機を使って、最後の狂いのところだけ雪吹雪を試みたが上手くいかない。石橋では幕切れの照明ミスといろいろあったが、客席の手応えは十二分に感じられ、カーテンコール二回。昼之部は2時間30分掛かり17:00終演。段取りがスムーズになればもう少し詰めたいところだが、とにかく小規模編成の一座だから人手が足らず、私も又之助さんも長唄の皆様もお囃子の皆様も、一服する間もなく出ずっぱり!舞台監督の井口さんは照明と付け打ちを兼任!大道具の塙さんは鷺娘と石橋の後見、及び早変わりの手伝い。床山の宇田川君も後見と早変わりの手伝い。衣裳の新井さんは、昼夜の間2時間半で引き抜き二枚、ぶっ返り一枚を縫わねばならず決死の形相!しかし、大変チームワークのいい一座なのでトラブルもなく順調な滑り出し。

19:30 夜之部開演。
客席は若い方が多いとみた。鷺娘の幕切れで若干照明ミスがあったが、全て2時間15分で上がった、やれやれ。夜之部は三回目のカーテンコールで、又之助さんと再び毛振りの大サービス!さずか不死身!?の私もこの内容で昼夜二回は、バテバテで、夜の解説では呂律が廻らず難渋(汗)
しかし、終演後のレセプションで交流協会の馬場さんが「中身の濃い充実したプログラムですね、以前のレクチャーより進化していますよ」とお褒め頂き、また、主催者側の國立中正文化中心の皆様からも「実現して本当によかった!ゆくゆくはグランド歌舞伎公演も是非実現したい!」とおっしゃって頂いたので、私も又之助さんも松竹の中野プロデューサーも、私達の最大の目的である日本の代表的芸能文化歌舞伎のご紹介と普及を果たせたと実感!こんなに嬉しいことはないと安心して、乾杯のビール二杯と赤ワイングラス二杯で目が回ってしまった!

10月11日

14:30 二日目昼之部開演。
体調は良好。昼ご飯の海老炒飯と酸辣湯の美味なること!さすが台湾!
鷺娘のラストの扇風機による吹雪がいまひとつ上手くいかない(悩む)。長唄の伊千四郎さんのご提案により、カーテンコール三回目の毛振りの大サービス!?に、狂いの三味線とお囃子を入れたところ、客席はおお盛り上がりで大反響!照明もトラブルなく、昼之部無事終了。夕食の牛肉湯麺が、これまたいいダシの効いたスープで美味!

19:30 夜之部開演 台湾公演千穐楽。
客席には、交流協会の斎藤代表ご夫妻もおみえになり、昼之部ほどの熱狂さはないが、静かで熱心に見守る満員の客席である。鷺娘終盤の吹雪はやっと初日が出た!石橋では、台湾公演ラストとあって、又之助さんの雄獅子が毛を振るは!振るは!スタミナ切れの私は、早く止めて〜!と心で願いつつ、ここでバテては末代までの恥辱とばかり!又之助なにするものぞ!と必死に振って振って振り抜いた!
めでたく打ち出し、全員で記念撮影。終演後、お世話役の陳さんオススメの台湾食堂へ有志で赴き、台湾ビールで乾杯!今回の公演が実現したのも、交流協会と國立中正文化中心の皆様のご尽力のおかげで、改めて感謝申し上げる次第です。
さあ、二日後にはいよいよ米国西海岸に上陸である!

会場の國家音楽庁リサイタルホールの全容
リサイタルホールの客席と舞台
コンサートホールなので、色々と工夫をして舞台設営をしました
地下鉄のコンコースに宣伝の為の大きなパネルが出ました!
日本と台湾のパートナーシップ促進年を記念して、日本から様々な文化・アーティストが招かれました。歌舞伎もその一つです。
日本交流協会主催による歓迎夕食会。斎藤代表を囲んで。フカヒレの煮込みが美味でした!
音楽の解説リハーサル風景
扮装のリハーサル風景
通訳のセンさん(向って左端)には大変お世話になりました。左端は又之助さん、真ん中は大道具の塙さん。
鷺娘のリハーサル
台湾千穐楽の記念写真
主催者の國立中正文化中心の皆様には、大変お世話になりました。
楽日の打ち上げ
台湾は食べるもの全ておいしくて堪能しました!

米国篇
米国パンフレット(表紙)
米国パンフレット(中面)
米国チラシ

その1 10月13日

11:00 ロサンゼルス着
聞きしに勝る厳しい入国審査! しかし、又之助さんの場合、最初はつっけんどんだった審査官が、歌舞伎のパフォーマンスで来たと聞いた途端、態度がぐっと和らいで、日本語をしゃべりだしたとか!?改めて歌舞伎の力を思い知らされた次第。
カラッと晴れ渡ったカリフォルニアの青い空を期待したが、重い雲が垂れ込めた本降りの大雨!なんでも台風18号の影響だとか?せっかく振り切って台湾公演を無事に済ませたというのに、ここまで執拗に追っ掛けて来るとは!唖然…。雨男は誰だ!?交流基金の菅野所長や二瓶さん達の出迎えを受け、会場下見やホテルのチェックインにはまだ時間があるので、ハリウッドが近いので、そこで昼食。ピザハウスの野菜ピザが、鮮度といい抜群の美味しさ!
私はハリウッドははじめてで、山の中腹に掛かるHOLLYWOODの大文字や、チャイニーズシアター前のマリリンモンローなど往年の名優達の手型足型、またアカデミー賞受賞式の時にレッドカーペットが敷かれる大階段などなどにひたすら感激!(写真参照)
到着後、長旅の疲れからホテルに直行して一休みしたいところだが、何故いきなりハリウッド視察をさせたか?二瓶さんに伺うと、時差ボケの予防策だとか、納得。

15:00過ぎ
リトル東京にある日米劇場に到着。来年30周年を迎えるという。過去、歌舞伎公演も様々に行われて来たが、私ははじめてである。所作板も定式幕も仮花道も大太鼓も完備した、キャパ800人ほどの中劇場。歌舞伎公演にはうってつけである。劇場スタッフがフレンドリーで、日本人的職人気質の皆さん。
せっかく花道を設置して下さったので、石橋の出を花道からに変更。大太鼓も拝借し、照明も含め舞台設営万全。打ち合わせを済ませ、ホテルにチェックインし本日は終了。ホテル内のスパに行き、中国人男性スタッフの絶妙かつ完璧なるマッサージを受けて台湾公演の疲れを払拭し、ぐっすり眠りに付いた。


その2

10月14日
10:30 総領事公邸にて、伊原総領事に接見後、記者会見。30人ほどの新聞、テレビ、ラジオプレス。質疑応答になり、かなり突っ込んだ質問責めで、こちらもテンション上げて応戦!しかし、皆さん、大変興味深そうで感触はいい!領事館の方が、こんなに関心度が高く、白熱した記者会見ははじめてだ!と驚かれていた。
13:00 日米文化会館内で昼食。ここの日本庭園は、日本にもなかなかない見事な造園である。
15:00 日米劇場。 照明合わせの後、舞台稽古。所作板の滑りが悪いので、パウダーを撒いてもらう。いつもレクチャーに於ける通訳の方との綿密な打ち合わせが大変な作業だが、小阪氏が頑張って下さる。順調な仕上がりで19:00終了。中野氏の友人のジャンパー氏ご夫妻のお招きで、又之助さん共々、ビバリーヒルズのステーキハウスに直行。なんとも美味しくて豪快なPRIMERIBステーキを堪能!担当のウエートレスのおばちゃまがチャーミングで愛嬌たっぷり。ワインセレクトも充実していて、また行きたくなるそのお店の名は「LAWRY'S」明日の本番を控え、エナジーを十二分に注入!ジャンパー氏ご夫妻に感謝!感謝!

10月15日
14:00 ロス公演昼之部開演。この度は、南カリフォルニア日米協会創立100周年記念のメインイベントだから、地元の力の入れようは相当なもので、交流基金ロス事務所長の菅野氏も紋付羽織袴姿!で陣頭指揮を取っていられる。この度の公演も菅野所長の熱意が実って実現したのである。全820席のうち、600席が埋まる。カーテンコール三回目で毛振りの大サービスにスタンディングの熱狂振り!今朝はまだ時差ボケの後遺症で、きちんと踊れるか不安だったが、踊ってみたら、すっかり覚醒して絶好調!
20:00 夜之部開演。全席完売!有り難い。鷺娘と石橋を一日二回踊ると台湾の時は足がかなり疲労したが、身体が馴れたせいか、今夜はそれほどでもない。ロス公演のみ、通訳はUC、IRVINEのガーフィアス先生が担当。愛嬌たっぷりの通訳振りでよくサポートして下さる。伊原総領事ご夫妻もご観覧下さり、夜之部も無事終了。終演後、劇場スタッフから所作板の裏にサインをしてほしいと懇望されたので、僭越ながら、お歴々のサインに混じって、又之助さんとふたりで平成二十一年十月十五日の日付と名前を記した。ともかく、米国公演初日が無事に開いて、ホッとして、片付け等済んで午前0時近かったが、ホテルの前の日本食レストラン(こんな時間にもかかわらず、地元の人々で大賑わい!)で、中野さんと舞監の井口さんと三人で、焼きそばとおろし蕎麦と冷や奴と豚の生姜焼きを肴に、ビールで乾杯!

その3

10月16日
サンフランシスコ着。12年振り3回目、思い出の桑港!である。昼食後、すぐに会場のサンフランシスコ州立大学内のマッケナ劇場の下見と荷下ろし。今回、大学側の担当者は後藤先生だが、後藤先生とのご縁は、12年前に、当地で活躍しているシアター・オブ・ユーゲンの土居由利子さんの製作・演出で、歌舞伎の女形とフラメンコのコラボレーションによる、ロルカの「血の婚礼」をベースにした創作劇を上演した際、俳優として参加され、私が二ヶ月半の長期滞在中、大変お世話になった間柄。手を取り合って久方の再会を喜びあった。ここは540席の中劇場で、三味線や鼓の音が心地よく程よく響き、音響設備は抜群。
演劇科の学生スタッフが大勢ボランティアでお手伝いして下さるので大変助かる。
18:30 長嶺総領事公邸にて、総領事主催の歓迎夕食会。高台にある公邸からはサンフランシスコ湾が一望出来、まことにナイスビュー!長嶺総領事から、熱い歓迎のお言葉を頂戴し、この公演の意義を高く評価して下さった。土居さんご夫妻とも再会。美味しいワインとお料理を堪能し、21:00過ぎ公邸を辞した。懐かしい夜のサンフランシスコも楽しみたかったが、明日の公演に万全を期する為、涙を飲んで早目に就寝。

10月17日
14:00 サンフランシスコ公演開幕。全席完売!予約券との引き換えに手間取り開演が15分遅れるが、嬉しい悲鳴!舞台はリノリュームらしきものが敷き詰められていて、地舞台は板目だから、取り払うよう頼んだが、釘が出ていて危ないと云う。しかたないから、パウダーをたくさん撒いてもらったが、踏み足の音は出ないし、滑らないし、裾は付いて来ないし、ほとほと往生した。しかし、開演前の挨拶で、後藤先生が、歌舞伎は引き抜きの時や見得を切った時は、遠慮なく掛け声や拍手をするよう実演入りでレクチャーしたので、それに呼応した学生さん達が、ノリノリの大歓声! それにつられて、私も足の痛いのも忘れて踊り切った!「石橋」が切れると、はたして、スタンディングのカーテンコール三回!
楽屋に戻ると、間髪入れずに長嶺総領事ご夫妻がおみえになり、白粉だらけの私や又之助さんの手を取られて「感激した!」と喜んで下さった!サンフランシスコも大成功である。
後藤先生とまたの再会を約してお別れし、ホテルに戻って、19:30に土居さんご夫妻と待ち合わせ、土居さんのご案内で、「OOLA」というフレンチレストランで夕食。サーモンのグリルが抜群の美味しさ!土居さんのご主人がセレクトして下さった白ワインも堪能した後、由利子さんが、Yerba Buena Center へお誘い下さる。ここは、モダンアートの美術館や劇場、フリースペースなどがあるサンフランシスコで最も新しい芸術エリア。12年振りに訪れたサンフランシスコは、懐かしいお店が閉店していたりして(涙)、時の流れが顕著である。

その4

10月18日
12:45 シアトル着。云わずと知れたイチローが所属するシアトルマリナーズの本拠地。空港に降り立つと、日本語のアナウンスや電光表示板に出っくわしビックリ!これもイチロー効果か。街中の木々はほとんど落葉樹で黄色や紅色に染まり、街並もスタイリッシュですっきりと美しい。

18:00 難波総領事公邸にて歓迎夕食会。日本人コミュニティーの方々が大勢参会。なかなかユニークな人達ばかりで、私と同世代の方も多く話しが弾む。公邸は築100年ほどの重厚な造りで、お庭には見事な枝垂れ桜の古木がある。ここでも矢継ぎ早の質問責めで、皆さん歌舞伎に対して大変興味深いのがわかる。


10月19日
19:00 シアトル公演開幕。会場のBenaroya Hallは台湾と同じくコンサートホールだから、幕もなくバトンもないから鷺娘のドロップも吊れない。かろうじて、照明のバトンを使って雪を降らせることは可能になった。しかし、音響は抜群だし、集中力の持続出来るいい空間。鷺娘の白無垢のあいだのブルーライトはここが一番美しい!長唄やお囃子の皆さんとの息もピタッと合致して、白無垢のくだりが、我ながら何も雑念なくすんなり踊れて嬉しかった!
しかし、引き抜いてパッと明るくなると、なんと一番前のど真ん中にひたすらカメラのシャッターを押し続ける中年の御仁がいるではないか!? シャッター音はサイレントだが、気になってしかたがない。「そんなことは気にするな!」と勘祖師の叱咤が耳の奥で鳴り響くのだが、凡人の情けなさ、傘尽くしの振りが途中でプッツンした!(涙)休憩時間に注意のアナウンスをしたら、さすがに最前列の御仁は止めたが、それでも下手の後方ではランプの点滅が途絶えなかった。こんなあからさまな撮影は今公演はじめてである。
しかし、客席はノリノリで、レクチャーの女形の笑い体験コーナーはここが一番!スタンディングのカーテンコールの熱狂振りも含め、領事館の口井さんの話しによるば、シアトルの人々は醒めていてこんなことはめったにないそうである。終演後、難波総領事が楽屋までわざわざ挨拶に見えられ恐縮。またまた口井さんいわく、あんなにニコニコ嬉しそうな総領事の顔ははじめて見たそうである。シアトル公演も大成功!終演後、素敵なワインバーで打ち上げ。地元関係者の皆様のご尽力に感謝申し上げます。

その5

10月20日 13:00
ポートランド着。今日はシアトルから3時間ほどのバス移動だから、空港の厳しいチェックを受けないで済む、ヤレヤレ。ホテルに着くと、ポートランド公演のOrganizarであるポートランド州立大学のコミンズ先生の出迎えを受ける。コミンズ先生とは、マーク大島さんのご紹介で東京で一度お目に掛かったが、大変な歌舞伎オタク(失礼!)である。
昼食後、会場の下見。ここは、キャパ300人ほどの小劇場だが、シェークスピアのグローブ座を模しているそうで、3階席まである客席の手摺りや柱はそういう造りだが、天井や格子造りの壁まで全て朱塗りなのが斬新と云うか不思議な空間。舞台は間口が狭く、深いオケピがあるので注意が必要。
18:30 岡部総領事公邸にて歓迎夕食会。
岡部総領事は学者肌の方で、仏教哲学のお話し等、興味深く拝聴した。ホテルに戻って雑用を済ませて23:00近く、買物がてら一杯飲もうとロビーに降りたら、長唄の伊四之介さんが丁度外から戻られて、何処も彼処も真っ暗でクローズだとのこと。聞けば、ポートランドの人々は22:00には就寝、朝は5:00には起きてせっせと働くとか!ちなみに、米国から日本に輸出される小麦は全て当ポートランド産だとのことである。

10月21日 19:00
ポートランド公演開幕。最初のレクチャーでの又之助さんと通訳の小阪さんの息の合った絶妙なやり取りも、モニターで聞いていると客席の反応が鈍いので?と思って、鷺娘で舞台に出ると、客席の雰囲気は物静かだが、じっくり拝見しましょう!?モード充満で油断がならない。狭い舞台なので少し豪雪気味?だったが、無事に幕。次の私のレクチャーでも何だかぎくしゃく気味で、こちらも緊張してしまった。石橋は、ふたりで毛を振るには間口が狭いから、地方連中は正面に居並んでもらったほうがよかったと反省しきり。
しかし、石橋が終わるとスタンディングのカーテンコールとなり、少し安心。岡部総領事が夫人と共に満面の笑みで楽屋をお尋ね下さったので、もう少し安心。舞監の井口さんから、女性の劇場スタッフが、「とても面白かった!日本に行ったら是非歌舞伎を見たい」と言っていたと聞いた時はかなり安心。コミンズ先生から、「レクチャーもパフォーマンスもVERYGOOD!! 学生の為にもなるBEST PROGRAM !」と聞いたときは、又之助さんと顔を見合わて大安心!領事館の若き副領事、渡邊さんの言葉少なの感動の笑顔に駄目押しの安心をして、これがほんとの五安心!で、ポートランド公演も大成功!
コミンズ先生主催の打ち上げ会で、「South park」というシーフードとワインのお店の蟹コロッケが、繋ぎもなにも使わずに蟹肉のみを軽く揚げたもので抜群の美味しさ!中野さんとふたりで追加注文してしまった!

その6

10月22日
15:00 デンバー着。 本ツアー最終公演地であるデンバーは標高1600メートルほどの高地。酸素が薄いから、アスリート達は皆ここで訓練するらしい…。慣れないと頭痛がするとか、激しい運動は心臓がドキドキするとか、空港に着いた途端、ぶっ倒れる人がいるとか、舞台袖に酸素ボンベを用意したほうがいいとか、散々おどかされ来たが、今のところ何にも感じないのは、鈍感なせいか?、はたまた、いつも舞台では酸欠状態だから、少々のことには対処出来るからか?
しかし、かなり乾燥していて寒い。半袖で過ごした台北が遠い昔のやうである。宿泊するホテルの真向かいにBROWN PALACEホテルという1892年に創業のクラシカルで重厚な素晴らしいホテルがある。そこの一階のパブが古きよきアメリカを絵に描いたような雰囲気で、カウボーイハットを被った年配の御仁も居る。
今日は完全にOFF日だから、このパブで白ワインをしこたま飲んで早目に寝てしまった。

10月23日 19:00
正午 今日も夕方までOFFだから、疲れがピークなせいか11:00まで爆睡。ランチに入った16ストリートのお店のクラムチャウダーが抜群の美味しさ!浅利のむき身が肉厚でプリプリで濃厚な味。街中の空気はひんやりと冷たいが、酸素が薄い実感はまだない。有色人種はほとんど見かけず、黒人も少ない完全な白人社会である?と感じた。
17:00 久保総領事公邸にて歓迎レセプション。デンバーでの歌舞伎公演ははじめてとあって、在留邦人が922人と、今公演地の中で最も少ないのにも拘わらず、領事館、コロラド日米協会、日本人コミュニティー、地元日本企業などの力の入れようは今公演一番で、会場のデンバー大学内の劇場もキャパ900人と今公演最大だし、すでに完売!とのこと。有り難いやら嬉しいやら! なんとしてでもデンバーでの千穐楽を成功させねば…!何事も終わりよければ全てよしの例えである。
20:00 公邸を辞して、BROWN PALACEホテルのバーで、一座一行のささやかな慰労会。三週間あまりの海外公演で、寝食を共にするのは本当に大変なことだが、今回大人数にもよらず、とてもチームワークのいい一座を組めて一丸となれたことを心から感謝申し上げます。乾杯の後、いきなり「キョウゾウさん!」と呼び掛けて来た白人男性が居てビックリ!また、宴たけなわで、隣り合わせの席の日本人や日本文化が大好きという白人の企業MANとも親しくコミュニケーションが取れたり、さらにバーのマネージャーが日本大好き人間だったりして、デンバーはバリバリの白人社会だとの思い込みが、何だか氷解して来た……。

その7

10月24日
19:00 デンバー公演開幕。めでたく千穐楽である。デンバー大学内にあるジュン・スワナー・ゲーツ・コンサートホール(個人寄付者の名が冠されている)は、900人収容の四階席まであるオペラハウスのような立派なホールで今公演最大規模である。設備も調っていて、マークさんと云うチーフ(とても親身)はじめ有能なスタッフも揃っている。
当日券を求めるキャンセル待ちの方が多数有り、四階席まで満杯。
客席は、「楽しもう!」という空気が手に取るようにわかり、レクチャーも、その熱気にこちらも助けられて楽に進行出来る。 照明担当のオペレーターが音を上げて投げ出したのを、チーフのマークが代わって操作した結果、鷺娘の照明完璧! はじめて初日が出た!?しかし、素の舞台稽古では感じなかったが、いざ本番になると、息が苦しい!心拍数も上がっている!舞台がデコボコで堅いせいもあるが、鷺娘も石橋もいつもの倍疲れた!さすがデンバー!侮れない! 酸素が薄いのを身を以って実感した次第。
まぁ、ここで倒れても役者京蔵は本懐であろう!と、必死に毛を振って、石橋も無事に幕。スタンディングのカーテンコールを受け、私も又之助さんも、大任を果たせて感無量。
終演後の楽屋での乾杯で、久保総領事が「レクチャーデモンストレーションを越えたものを提供してくれて有り難い」とおっしゃって下さったことは、我々一座一行の苦労が報われた思いである。
チーフのマークに熱く御礼を述べて劇場をあとにしたのが22:30近く。明日の日本への移動が、午前4:30出発!というとんでもないスケジュールなのに、楽日の開放感、一杯飲まずにはいられない!とばかり、私と中野さんと井口さんの三人で、例の向かいのホテルのパブに行くと、なんとピアノを囲んで地元のご常連が、「マック・ザ・ナイフ」や「雨に唄えば」や「ハロードーリー」などなど往年の映画の名曲を大合唱しているではないか!おまけに、ハロウィンが近いから仮装したご夫人達も居てビックリ!とくに、「ハロードーリー」を唄った銀髪の高齢のご夫人が、たいした声量で、「真の花」の貫禄十分。私は12年前、サンフランシスコで出逢った真っ赤なルージュの老女優を思い出していた。私達もつられてノリノリで拍手していると、突然、「あんた達!なぜ唄わないのですか!」とジャケットに眼鏡の三十代とおぼしき白人男性が、我々のテーブルに乱入して来たのでまたまたビックリ!
話しを聞くと、彼は学生の時分に日本に留学して居たとか。日本各地や方言をよく知っていること!いわゆる変な外人さん(ごめんなさい)的ノリで、その話しっ振り、間合いの面白さったらない!
私は彼に、きのうもふたりの白人男性に声を掛けられたし、デンバーは白人社会で、なんでこんな地元密着型のパブ(私は以前、サンフランシスコで苦い経験がある)でも、我々有色人種を受け入れるのか聞いてみた。彼は、デンバーのヒストリーを詳しく述べてくれて、ここコロラド州デンバーの人々は、有色人種にはなんの偏見もなく、子供のような純粋な気持ちで接していると述べてくれた。デンバーでの感慨深い千穐楽の深夜に、思い掛けぬ一幕が付いて、我が意を得たりと膝をポンと打って、柝がチョンと入り、本旅日記もまずはこれ切り。
この度の公演開催実現にご尽力下さった、米国西部各地元の関係者の皆様に心より熱く御礼申し上げます。SEE YOU NEXT TIME !

【ロサンゼルス
初めてのハリウッド!遠く霞んで、山腹にハリウッドの横文字が・・・
アカデミー賞式典の折、レッドカーペットが敷かれる大階段
チャイニーズシアター前広場のマリリン・モンローの手型・足型!
今公演の為に大きなポスターを作って下さいました(全米国公演共通)
会場のリトル東京内の日米劇場前で
音楽解説のリハーサル(又之助丈)
右は全米国公演の通訳を担当して下さった日米劇場の小阪さん
楽屋風景 鷺娘開幕直前
ビバリーヒルズのステーキハウス。このボリュームで元気モリモリ!

【サンフランシスコ
会場のサンフランシスコ州立大学内のマッケナ劇場
同客席から舞台を望む
同大学の後藤先生とは12年振りの再会!
長嶺総領事御夫妻と総領事館での歓迎レセプション
歓迎レセプションでひと言ご挨拶させていただきました
美しいサンフランシスコ湾を背に 総領事館にて

【シアトル
会場のベナロヤホール内のリサイタルホール
会場のロビーにて
シアトルの街並みを望んで
衣裳の新井さん
引き抜き2枚、ぶっ返り1枚を毎回短時間で必死に縫ってくれました!
床山の宇田川君
慣れない女形のあたまを、毎回センスよく結い上げてくれました。

【ポートランド
会場のドロリアス・ウィングスタッド劇場の不思議な空間
同客席から舞台を望む
劇場ロビーにて
岡部総領事館歓迎レセプションにて
私の向って右隣が歌舞伎通のコミンズ先生

【デンバー
会場のジュン・スワナー・ゲーツ・コンサートホール
同客席から舞台を望む
化粧の解説リハーサル
スクリーンを活用しました
千穐楽前日の打ち上げパーティー
右手前から松竹の中野さん、長唄の伊千四郎さん、正園さん、伊四之介さん、六治郎さん、衣裳の新井さん
左手前から又之助さん、小阪さん、鳴物の傳太郎さん、太州さん
右から舞台監督の井口さん、全米国公演をお世話して下さった二瓶さん、鳴物の大喜十朗さん
左から井口さん、塙さん、宇田川さん、新井さん
千穐楽 石橋開幕直前!

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